筆者はフランツ・カフカ(Franz Kafka)の代表作である小説『城』(Das Schloss)がとても好きです。初めて読んだ当時にはウェブ上に『城』を扱った楽しいページが見当たらなかったので、自分なりに楽しさを書き起こしてみることにしました。
この記事では新潮文庫『城』(前田敬作訳)をテキストとして使用します。
『城』とは
カフカの死後に遺された三大長編(『審判』、『城』、『アメリカ(失踪者)』)のうちの一つで、質・量ともに最大の作品です。
カフカは友人にこれらの作品の焼却を遺言して死んでゆきましたが、友人マックス・ブロートはこれらの作品を評価し、いわば遺言を破棄する形で作品を世に送り出したのでした。
『城』は、測量師の「K」がはるか遠くの地の役所(城と呼ばれている)に招かれ、雪に埋もれる村に到着するシーンから始まります。
ここでKは、村の娘と恋仲になったり、正体不明の助手をつけられたりと、さまざまな出来事を体験しますが、肝心の城にはいつまでたってもたどり着くことができません。そのもどかしさは、しばしば笑いを誘うものですが、決して単なるギャグ・ナンセンス小説とはいえないでしょう。私はこの作品を何度も読んで、時折笑いつつも、Kの置かれた厳しい運命に共感せずにはいられません。
登場人物たち
筆者は文学の研究者ではなく、一ファンとして、まずは個性あふれる登場人物たちを登場順に紹介していきます。
K(カー)
本作品の主人公。測量師である。遠い土地から旅をして、城のある村にやってきた。しかし村では測量の仕事は与えられず、また城にも入ることができず、苦しむことになる。
ウェストウェスト伯爵
名前だけで、実際には登場しない伯爵。城と呼ばれる役所はこの伯爵の所領である。
シュワルツァー
城の下級執事の息子。村に到着したKをよそ者として追い出そうとする。
オットー・ブルンスウィック
村に住む靴屋。ハンスという息子がいる。
小学校の教師
伯爵のことを知らない教師。白鳥通りの肉屋の家に住んでいる。
ゲルステッカー
馭者。
アルトゥール
Kにつけられた助手の一人。もう一人の助手イェレミーアスと瓜二つの外見をしている。背は低く、ぴったりした服を身につけ、黒い口ひげをたくわえている。Kは、二人の助手を見分けることができないので、「お前たち二人をアルトゥールと呼ぶことにする」と言い渡す。そして共同で何でも責任を負うようにさせる。イェレミーアスからは「気のいい、かわい子ちゃん」と呼ばれている。
イェレミーアス
もう一人の助手。後にアルトゥールとは別れ、フリーダをものにしてしまう。
ガルデーナ
旅館「橋屋」のおかみ。
ハンス
その夫。
フリーダ
Kの許婚者となる女性。後に別れることとなる。
クラム
城の「X庁」の長官。かつてはフリーダを恋人にしていた。いろいろな人の口にのぼるが、Kは結局彼と会うことはできずに終わってしまう。
村長
城の役人の一人。病気でベッドに寝たきりである。Kの招聘に関わった人物で、測量師と書かれた書類を作成したが、なくしてしまった。
バルナバス
城への使者をしている若者。正式な役人ではない。Kの言うことを一言一句間違えることなく暗唱する能力を持っている。
オルガ
バルナバスの姉。大柄で強そうな肉体をしている。
アマーリア
バルナバスの妹。秘密を持っている。
ソルディーニ
城の役人。仕事熱心なイタリア人。
モームス
在村秘書。クラムとヴァラベーネの二人に仕えている。
ヴァラベーネ
名前が登場するだけの役人。
ギーザ
小学校の女教師。性格がきつい。
ハンス・ブルンスウィック
小学生。
ソルティーニ
城の役人。めったに表には出てこない。消防を担当している。ソルディーニと間違われやすい。
以上が主要登場人物です。これから『城』をお読みになる方の参考になれば幸いです。